こんにちは。昭和58年卒業(一回生)の手塚です。(平成18年3月8日)

先日、犬山の会社で会議があったとき、ふと懐かしくなって、帰りに江南高校に立ち寄ってみました。
自転車置き場や、校舎正面の階段など、当時のままの雰囲気が残っていて、うれしく思いました。
私は、江南高校を卒業後、京都、埼玉、フィラデルフィア、千葉と、よくもまあこれだけ引っ越したもんだと
自分でも感心するくらい、あちこち移動して、今は岐阜に落ち着いています。

私は、高校時代から生物に興味がありました。特に、遺伝子配列にとても神秘的な物を感じて、
10年以上遺伝子に関する研究を続けました。しかし、いくら遺伝子を単離して、その配列を決めてみても、
なかなか生物の神秘的な部分には近づけませんでした。
「おかしいな?、自分のやり方が間違っているのだろうか」と悩んでいた時に、免疫学者の多田富雄先生
に出会い、「複雑系」という物を教えてもらいました。

複雑系というのは、単純な要素(分子、遺伝子、細胞、人など、何でも良い)が、多数集まって相互作用すると、
その挙動はまたたく間に予測可能な領域を超えて、それぞれの要素の働きからは想像できないような
不思議な現象が現れてくるというシステム論です。たとえば、校庭に全校生徒が集まったとします。
そこで、ひとりひとりに「両手を前に上げて、前の人と自分の手の長さ分だけ間隔をあけて並ぶ」という、
いわゆる「前にならえ」というルールを与えると、何百人という人がきれいに並ぶという高次現象が起きるわけです。

今は、目も耳も無い細胞が、自分のごく周囲の限られた情報だけをたよりに、
どうやって「骨」という支持器官を維持しているのかというテーマを中心に、再生医療の研究をしています。
実際には、骨の中にいる細胞集団の働きを観察する事は難しいので、コンピュータを何台も並べたPCクラスタ
という物を使って、シミュレーションによって人間の骨の形を作っています。将来は、ひとりひとり違う骨の形を、
生きたままシミュレーションの世界に再現して、テーラーメイド医療へと活かしていきたいと考えています。

私が、科学の世界で、いろいろな人と出会い、最新の研究成果に触れて分かった事がひとつだけあります。
それは、自分は「無知」で「バカ」であるという事です。それが理解できたとき、生まれて初めて、
自分の目の前に広がる未開の世界が「見えた」と思いました。私が高校を卒業したとき、
先生が「孤高になるな。お前はまだまだだ。」と言われた意味が、今は良く分かります。
今、世の中には情報があふれて、ともすれば自分たちはいろいろな事を知っているという「錯覚」におちいります。
孤高になりかかっていた私は、自分を映す鏡である沢山の人と出会い、高校を卒業してから20年以上もかかって
自分の本当の姿を見ることができたようです。そして、自分が何者か分かって、
ようやく世界が見えるようになったのだと思います。もし、あの時の先生の言葉が無かったら、
私は今も壮大なる勘違い人生の中でもがき苦しんでいたかもしれません。
高校で学んだ事は、勉強にせよ人生にせよ、一生の「たからもの」になります。
ぜひ、有意義な高校生活を過ごしてください。


手塚 建一

岐阜大学大学院医学系研究科
組織・器官形成分野
Homepage: http://homepage3.nifty.com/~tezuka-k/Born_to_Bone.html